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最高裁判所第一小法廷 昭和48年(オ)157号 判決

上告人

堀之内信義

右訴訟代理人

大道寺和雄

中西英雄

被上告人

中村耕史

右訴訟代理人

原山剛三

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人大道寺和雄、同中西英雄の上告理由第一、について。

原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)によると、原審の認定した事実は次のとおりである。

すなわち、本訴は、本件山林の買主である被上告人がその坪数不足を知つた時から一年を経過したのちに提起されているが、本訴の提起が右のようにおくれたのは、上告人が、売主の自己であることを秘匿し、本件山林の前主である近藤銀市より預つていた印章を用いて同人名義の売買契約書を作成し、これを同人の権利証とともに本件売買の仲介人である加藤博正を介し被上告人に交付して近藤を売主のごとく装つていたため、被上告人が近藤を売主と誤信して同人を相手どつて代金減額請求訴訟を提起、追行していたからである。そして、被上告人は、右訴訟の経緯により売主はあるいは上告人であるかもしれないとの疑念を抱くようになり、念のために同人に対して本訴を提起したところ、間もなく近藤に対する訴についての判決の送達を受けて売主が上告人であることを知つたのである。

原審の右事実の認定は、原判決挙示の証拠に照らし首肯することができる。

ところで、民法五六五条によつて準用される同法五六四条所定の除斥期間は、買主が善意のときは、同人が売買の目的物の数量不足を知つた時から起算されるが、買主が数量不足についてはすでに知つているものの、その責に帰すべきでない事由により売主の誰れであるかを知りえなかつたときは、買主が売主を知つた時から起算すべきであると解するを相当とする。そして前記事実関係のもとにおいては、被上告人はその責に帰すべきでない事由により売主が上告人であることを知りえなかつたものというべきであるから、これを知つた時から一年内に提起されれば、訴は右除斥期間を遵守した適法なものであると解すべきところ、前述のような事情で右知つた時にはすでに提起されていた本訴はもとより適法であるといわなければならない。

してみると、これと同旨の原審の判断は正当として肯認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

同第二、について。

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠に照らし、首肯することができ、右認定判断の過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する事実の認定、証拠の取捨判断を非難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(藤林益三 大隅健一郎 下田武三 岸盛一 岸上康夫)

〈上告理由省略〉

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